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2020年01月08日 猫伝染性腹膜炎(FIP)

猫伝染性腹膜炎(FIP)

猫伝染性腹膜炎(FIP)は、主に若い猫ちゃん(<2歳)に発症しやすい病気です。

純血種のほうが雑種猫よりも発症しやすいという報告もあれば、有意な差はないとする報告もあります。実際、経験上は日本にいる限りあまり差はないように感じます。
「伝染性」という名前ですが、現在の見解では他のネコちゃんに自然に移ることはないと考えられています。「腹膜炎」という名前ですが、腹膜だけでなく、全身の様々な臓器に炎症を起こします。

6割から7割の猫ちゃんは生まれたときの環境から猫腸コロナウイルス(FECV)に感染し、保菌します。FECVが腸内に存在するだけなら大きな症状は出ず、少しお腹をこわしやすいという程度にとどまります。FECVが強毒化し、猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)に変異することで、炎症細胞であるマクロファージ内に侵入し、増殖、拡散して全身に広がります。また、ストレス(多頭飼育、ペットホテル、手術など)や猫免疫不全ウイルス、猫白血病ウイルス感染などの免疫抑制状態においても発症しやすくなります。FIPVが全身に強い炎症を起こすことで様々な症状を呈します。

FIPの代表的な病型としてウェットタイプとドライタイプがあります。
ウェットタイプでは、腹水や胸水貯留(お腹の中、胸の中の臓器の隙間に水が溜まること)による腹囲膨満や嘔吐下痢などの消化器症状、呼吸促拍、呼吸困難などの症状が認められます。

ドライタイプでは、腹水や胸水は溜まらず、様々な臓器に肉芽腫性炎という小さなしこりのようなものをつくる特殊な炎症が起こることで、臓器ごとの症状がでます。目に起これば目が濁ったり(ぶどう膜炎と言います)、肝臓に起これば黄疸がでたり、胃腸に起これば嘔吐下痢をしたり、脳に起これば発作やふらつきなどの症状がでたりします。
いずれのタイプでも発熱、体重減少、元気消失、食欲不振などの症状がみられます。

FIPは時に診断が困難な時もあり、「FIPか否か」の診断が非常に重要になります。血液検査では高タンパク血症(高グロブリン血症)や急性期蛋白(SAAやα1-AGP)の上昇を認めることが多いです。また、血液中の抗体価を測定することもあります。抗体価とは、体がどれだけその菌に対して抵抗しているかの強さを現わしていて、FECVではそれほど高い抗体価は出ませんが、FIPVに対しては高い抗体価が出ます。ただし、どちらももともとは同じコロナウイルスなので、明確な区別はつきません。また腹水や胸水がある場合、FIPウイルスの遺伝子量を測定する(PCR法)こともあります。さらに、各臓器の中にしこりをつくる場合には、手術で切除し組織の病理検査を行うことで診断がつくことがありますが、手術によるストレスがFIPの症状を増悪させてしまう恐れもあり、実施には慎重を要します。診断にはこれらの検査と症状を組み合わせて行い、FIPの可能性を検討していきます。

(追記)FIPの最新治療
GS-441524というRNAウイルスの合成阻害薬がFIPの治療に非常に有効であることが米国のUC davisから報告されました。

Efficacy and safety of the nucleoside analog GS-441524 for treatment of cats with naturally occurring feline infectious peritonitis. Pedersen NC, Perron M, Bannasch M, Montgomery E, Murakami E, Liepnieks M, Liu H. J Feline Med Surg. 2019 Apr;21(4):271-281.

この報告では31頭のFIP罹患猫のうち、26頭に治療が有効であったということです。

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