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分子標的薬トラメチニブ(メキニスト)、抗体薬モガムリズマブ(ポテリジオ)による治療 を開始しました。

わんちゃんや人の体の中には細胞の増殖などに関わるBRAF遺伝子というものがあります。この遺伝子は細胞の増殖を制御するシグナル伝達経路の一部を担っています。 BRAF遺伝子に変異が起きると、細胞増殖の「増えろ」というシグナルが異常に活性化し、細胞が無秩序に増殖し始めます。これが、いわゆる『がん』と呼ばれるものです。わんちゃんや人の膀胱がん、前立腺がんでは、このBRAF遺伝子の変異が多く認められており、この経路をブロックすることでがんの増殖を抑える治療が有効です。

 

トラメチニブ(商品名メキニスト)は、このBRAF遺伝子の変異が起きているわんちゃんに対してシグナル伝達経路のうち、BRAFの下流にあるMEKと呼ばれるたんぱく質を阻害し、がん細胞の増殖をおさえます。

本院では、以前から、膀胱がん、前立腺がんに対して、BRAFよりもさらに上流にあるHER2というがん細胞の表面にある受容体をターゲットにしたラパチニブ(タイケルブ)というお薬を使用しています。治療成績も良く、手術なしで、数年間元気に過ごしている子もいます。しかし、中には、治療反応が乏しく、腫瘍が増殖していく子もいます。こういったわんちゃんに対して、新しい治療薬であるトラメチニブは有効である可能性があります。

また、最近、別の新規治療薬であるモガムリズマブ(ポテリジオ)も有効であることがわかってきました。これは、がん細胞の表面に多く存在する「CCR4」というタンパク質をターゲットとする抗体薬です。CCR4が腫瘍細胞にたくさん発現していると、制御性T細胞(Treg)と呼ばれる細胞をよびよせます。このTregは、近年、ノーベル生理学・医学賞を受賞した大阪大学の坂口志文先生が発見した細胞です。この細胞は、炎症の収束や免疫寛容に関わる重要な免疫抑制細胞であり、人の腫瘍においては抗腫瘍免疫を抑制して患者の予後を悪化させることが知られています。

また、犬の前立腺癌においても、腫瘍組織へのTreg浸潤が予後を悪化させること、Tregの腫瘍内浸潤にはCCR4が関与していること、CCR4阻害剤の投与が前立腺癌に対して有効であることが最近明らかになりました。したがって、CCR4を標的とした「制御性T細胞を制御する治療戦略」が進行性前立腺癌に対する新しい免疫療法となる可能性が示されました。モガムリズマブ(ポテリジオ)は、このCCR4と結合してTregが集まってくることを抑えることで、がんへの免疫応答を高める画期的な治療法です。治療の選択肢を広げる新しいアプローチとして注目されています。

以上より、トラメチニブ(メキニスト)、抗体薬モガムリズマブ(ポテリジオ)が犬の膀胱がん、前立腺がんなどに対する新しい有効な治療法として注目されています。しかし、発表されてからまだ十分な時間が経っていないことから、取り扱っている病院も少ないのが現状です。これらの入院治療などは必要とせずに通院での治療となります。かかりつけ病院で手術はもうできないといわれた場合や、抗癌剤などには抵抗があり他の治療法をお考えの場合は、ご相談ください。

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